コーヒーの予測誤差
先日, TeXの環境が破壊されていたので再構築に苦しんでいました. スタバで1時間ほどターミナルとにらめっこしていました.
その時にコールドブリューコーヒーを頼んだのですが, 予想よりも透明感の高い舌触りに心地よさを覚えました.
予測と違う味覚・嗅覚刺激が来たのに快情動が惹起された, これはなぜでしょう?
予測誤差
予測から極端に外れた (予測誤差の大きい) 刺激に対して, 我々は負の感情を抱きます. 例えば, 固めに炊いたはずのご飯がべちょべちょだったら不快なはずです. 同様に, 聴いている曲の音量が急に上がったら嫌悪感を抱くはずです.
しかし, 予測から "適度に" 外れた予測に対して, 我々は報酬を感じることが19世紀より知られています (Wundtの逆U字).
この逆U字現象は, 現代では “新しい情報により予測が更新されることに脳が報酬を覚える, しかし情報量が多すぎるとそれを処理できず負の感情を抱く” ためであると解釈されており(Berlyne, 1967, 1971など), これはシグモイド関数を用いてモデル化できることが知られています (Saunders, 2012 など).
つまり, 私が飲んだコーヒーは適度に予測から外れていたため, 美味しく感じることができたのです.
(Saunders (2012) [1] より. 刺激の新奇性 (novelty) に対して, 感情価 (hedonic value) は逆U字のような曲線を描きます. Saundersは, 感情価を reward system と punish system に分けた上でそれぞれをシグモイド関数でモデル化しています. )
予測精度
また, そもそもコーヒーとはバラエティに富むため, 比較的大きな予測誤差を許容していたのかもしれません.
もし僕が “苦いコーヒーを飲むぞ!” と予測を立てながらコールドブリューコーヒーを飲んだのなら, その軽さと物足りなさに不快感を覚えていたかもしれません.
すなわち, 予測の精度によって “相対的な予測誤差” が左右され, 惹起される感情も異なってくるのです.
予測精度が低いと "相対的な予測誤差" は下がり, 精度が高いと "相対的な予測誤差" は大きくなります.
(少し難しい言葉を使いますが) 予測分布の分散が大きいと2σ区間が広くなったりすることをイメージしてみると分かりやすいかもしれません.
(滋賀大学 中川雅央先生のウェブサイト [2] より. 予測精度が高い=分散が小さい分布 (青) の方が, 予測精度が低い=分散が大きい分布 (赤) に比べて誤差に対して敏感に反応することが分かります. 2σ区間が狭いと言い換えても良いですし, 同じ確率事象に対するシャノンサプライズが高くなると説明しても良いかもしれません. )
サカナクション
長くなってしまいましたが, このように予測の誤差と精度で日々の刺激を改めて解釈すると面白いかもしれないという話でした.
これは余談ですが, 僕の大好きなサカナクション山口一郎さんも, “良い違和感” をキーワードに活動しているようです (ライブのMCやインタビュー映像で頻出します).
ちなみに, このブログのタイトルもサカナクションの曲からです.
[1] Saunders, Rob. (2012). Towards Autonomous Creative Systems: A Computational Approach. Cognitive Computation. 4. 10.1007/s12559-012-9131-x.
[2] 正規分布 normal distribution - 数理的思考 - 中川雅央 【知と情報の科学】. (n.d.). Retrieved July 14, 2019, from https://www.biwako.shiga-u.ac.jp/sensei/mnaka/ut/normdist1.html